わたしがピンチのとき 
母はいつも言った。 
「できることせな、しゃあないからなぁ。」 
できないことだらけの只中にいて 
にっちもさっちもいかないとき 
その言葉は励みになった。 
「人間はな、でけへんことはでけへん。しゃあないねん。」 
「よかった探し、したらええねん。アカンわ思てたら、力出ぇへんやろ。」 
わたしが泣いてたら 
「お腹温めたらええねん。」と言って、甘いミルクティーを淹れてくれた。 
娘は甘い飲み物が苦手なんだということが、何度言っても覚えられなかった。 
甘すぎて、全部飲むのは大変だったけれど 
飲み終わる頃には、笑えてきた。 
母は脳障害なので 
彼女の口から聞くことはできないけれど 
わたしの中に棲んでいる言葉 
— できることせな、しゃあないからなぁ — 
だから、わたしはタフなのかもしれない。 
今できることをするしかない。 
できることが見当たらない? 
それならば、お腹を温めてみるといい。 
できない自分を責めるより 
できない自分を温める。 
そのほうが、力が湧くから。